飛騨の祭

長く厳しい冬の間、飛騨の人々は寒さに耐え雪と戦いながら、春が来るのを待ちわびます。
そしてようやく日差しに暖かさが感じられるようになった頃、飛騨では春の訪れを告げる祭が各地で行われます。

飛騨三大祭 
 飛騨地方の祭と言えば、高山祭と古川祭(共に国指定重要無形民俗文化財)、そして神岡祭の3つが代表的です。
 高山祭では、動く陽明門と言われる絢爛豪華な屋台が、情趣あふれる古い町並みをバックに引き揃えられます。日本三大美祭の1つに数えられる要因になっているのは、芸術品とも言われるその屋台。江戸時代、城下町建設によって莫大な財を築いた飛騨の旦那衆は、屋台建造に巨費を投じました。そして、飛騨の匠として名を馳せた大工や彫刻師などが腕をふるい、このように豪奢なものができたのです。
 古川祭は、起し太鼓や屋台曳行などによって構成されています。前者は夜に行われる祭で動のイメージ、後者は日中に行われ、一転して静のイメージとなります。起し太鼓では、古川やんちゃと呼ばれる古川町特有の自由奔放な気性が大いに発揮されます。天下の奇祭とも呼ばれるもので、その年のご利益を願い、大太鼓をめがけて裸男達が激しい攻防を繰り広げるのです。けがをしても当たり前。しかし、祭の際に負傷したとは決して言いません。それが粋なのです。
 そして神岡祭では、総勢千人余にものぼる神輿行列が町内を巡行し、町全体が興奮に包まれます。本楽祭の夜には、松明を持った氏子が参道に集合。獅子や神輿の激しい舞も披露され、祭はクライマックスを迎えます。

酒と祭
 このような祭の場に、酒は欠かせません。酒は古くから、神に祈りを捧げる際の献上品でした。そして儀式が終わった後に飲み干すことで神と一体化する。昔の人々は、酒を飲んで酔った状態を神の領域に近づいたものと考えたと言われます。酒は神聖なものとして扱われ、神事には欠かせない存在になっていったのです。
 古川祭では氏子からの献酒があり、各町内の酒係が取りまとめを行います。激しい戦いに挑む前に、男達は酒を飲むことで士気を鼓舞するのです。
 また、祭の準備段階における各種の会合時など、酒は折々に登場します。祭の夜には親戚や知人を招待し、郷土料理とともに酒を飲んで大いに盛り上がるのです。そして祭が無事終了すると、慰労会を開催。祭のご馳走を持ち寄り、心おきなく酒を酌み交わします。お互いの労をねぎらい、余韻に浸るのです。
 祭に参加する人々が一緒に酒を飲むことで、心が一つになり連帯感が生まれます。さらに、ほろ酔い気分になれば人は胸襟を開き、人間関係も円滑になっていくもの。酒は奥深いパワーを秘め、実に様々な役割を果たしているのです。